老司書のつぶやきです。

NO1_老司書のつぶやき

by 老司書

  • 2014年11月10日 17:21

齢70を超し、やがて来る“お迎え”の日に向けて一足づつ歩む老人にとって、40年余にわたって関与した図書館の後輩の諸氏に伝えたいことが無いわけではない。まさに、「この世も名残。夜も名残。死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜。一足づつに消えてゆく。夢の夢こそ哀れなれ。…」である。

そう思っていた矢先に、本誌の「創刊準備号」から「コラム;図書館司書のつぶやき」が掲載され始めた。これは図書館業務の崩壊が始まったという認識の下に、危機感を持った現役司書の方の“つぶやき”の形をとった警告文でもあると受け止めた。この警告文に取り上げられた幾つかの問題は極めて妥当と考え、同意できる。司書氏のご指摘の問題点に蛇足を加えながら、私見を申し述べてみたい。

1.世間の目_図書館司書の仕事「貸出し」について

 先ず、図書館司書氏は「その原因は分からないが世間では図書館の仕事はよほど暇な仕事だと思っている人が多い。」と嘆く。そう思っている世人の描く図書館員の仕事のイメージとは「図書館は本などを適当に置いておいて客が来たら求めに応じて貸出すだけの仕事であると思っているらしい」とある。単純そうに見える貸出し業務も見かけほどは単純ではない。また今の図書館は、本だけでなく、雑誌、視聴覚資料、紙芝居、おもちゃなど多様な資料類を貸し出すことは司書氏の指摘しているとおりである。図書だけに限定しても、貸出した資料は返却してもらわなければならない。返却された資料は延滞・毀損等の有無のチェックを経て、書架上のあるべき位置に再配架されなければならない。毀損があれば修復が必要となる。貸出予約の有無のチェックも必要である。再配架まで行って初めて1件の貸出サービスは完了する。

 

2.「貸出し」以外に重要な仕事がある

 確かに、貸出しと言う仕事も、実際に責任を持って遂行する立場になれば、無責任に眺めている人が思うほどに暇な仕事ではない。一般には図書館員(司書)の仕事は本を貸出すことだけだと思われているのかもしれないが、これ以外に重要な仕事が山ほどある。図書館イコール無料貸本屋観が世間を風靡している結果、このような「図書館は暇な仕事」と言う図書館観が生じるのは当然である。図書館の仕事だけではないかもしれないが、貸出し業務に限らず、前処理があって後処理がある。この両者が滞りなく行われて、一つの仕事が完了する。図書館の職員がまじめに仕事をしていれば、暇な仕事だなどと思われるはずはない。万一、図書館の職員に待ち時間ができたなら、その時は直ちにシェルフ・リーディング(shelf reading)をしなければならない。老人の懐古趣味かもしれないが、最近の司書養成で、このシェルフ・リーディングの重要性は教えられているのであろうか。Book Availability Rate等と言う一見高尚そうな指数の算出式は教わっても、シェルフ・リーディングで、どのように書架上の配架本を整理するかについては何も知らない司書が増えているように思えてならない。それが証拠に開館直後の図書館に行っても、書架上の配架本が乱れており、60~120度傾いている本はざらで、本の背が書架板の前縁にきっちり揃ってはおらず、凸凹が激しいケースによく行きあたる。如何にデジタル化の時代と言え、図書館から紙の本が消えることはあるとしても、まだ50年や100年はかかるであろう。即ち当分、職員の蔵書に関する知識を増大させ、利用者のBook Availabilityを増大させるためのシェルフ・リーディングの重要性はなくならないのである。シェルフ・リーディングは図書館サービスの「前処理」のほんの一例である。

 

3.「貸出し」と図書館法17条_その解釈と課題

貸出しとは「公有財産としての図書館の蔵書を、私人に一定期間占有させて私的な利用に無料で供する」という現在の日本の行政では極めて例外的な公有財産の利用例である。行政の専門家にはこのようなサービスが無料で供されるということは驚きであるらしい。言うまでもなくこうなっているのは図書館法の17条の「…利用に対するいかなる対価をも徴収してはならない。」とされているからである。

ところが、この条文のモデルとなった米国の公共図書館界をはじめ、日本でも図書館法17条の見直しの声が最近大きくなっている。図書館の利用は本当に無料でなければならないのか。無料での利用は公共図書館だけに適用されるのか。利用を無料とした理由は何か。公民の権利としての図書館利用が無料化されたのならば、無料の利用対象から営利出版物は排除されるのか。憲法ですら、その条文の解釈をめぐって、盛んに論議されている昨今である。この図書館法の条文の解釈を如何にするか、また、解釈如何では現行図書館法の改正を如何にするかは日本の図書館界にとって直近の課題の一つであろう。図書館利用対価の無料の是非はさておき、この論議が盛んになることで、最近とみに薄れている社会の公共図書館への関心も高まるであろう。

 

4.図書館の仕事_「パブリック・サービス」と「テクニカル・サービス」

図書館の仕事は一般に閲覧・貸出サービスやレファレンス・サービスなど利用者に直接的に対応する「パブリック・サービス」と、そのパブリック・サービスを実行するために必要となる蔵書構築や、蔵書の組織化、具体的には蔵書の分類や目録化などの「テクニカル・サービス」に分けられ、その両者が密接に補完しあって、図書館サービスが成り立つ。「テクニカル・サービス」は「パブリック・サービス」の前処理の部分もあり、「後処理」の部分もある。「テクニカル・サービス]は図書館の利用者からは見えないところ、すなわち壁の向こう側で行われている仕事であり、何も知らない利用者は壁のこちら側の目に見える仕事だけを見て、それが仕事の全てだと誤解する。また、サービスとは世上よく用いられる“おまけ”の意味ではない。ところが、日本の現状では、しばしば、図書館サービスとは行政サービスであるとされる。すなわち、納税者に対して提供される行政のおまけとしての図書館サービスを提供しているという考えである。具体的な図書館利用という直接的なサービス提供によって、自治体行政への親近感・好感度をあげようとする安易な発想とも言える。このような行政側の発想を安易で低俗とけなすことはできるが、このような発想を唯々諾々と受け入れる図書館側も図書館側であると言える。

5.図書館サービスは、地域情勢の最も基礎的なサービスであるべきだ

図書館サービスは、単に行政からの納税者に対するおまけの施しではない。図書館サービスは公民としての地域コミュニティの住民に不可欠なサービスであって、この種のサービス(役務の提供)は民主的な社会にあっては地域行政の最も基礎的なサービスとして公民に提供されなければならない。図書館は行政からの施しではなく、住民に義務として設置され、提供されるべきサービスなのである。しかし、そうであるなら、その公民に情報提供する公共図書館の蔵書構成は、現状のようベストセラー中心の営利出版物主体の蔵書構成で良いのか。図書館法の第3条第1項には公共図書館の収集し、一般公衆の利用に供すべき資料として、「郷土資料、地方行政資料、美術品、(音楽)レコード、フィルム」が図書、記録、視聴覚資料に合わせて用意されるべきと定めている。

 

6.日本の公共図書館の蔵書構成と問題点

図書館が民主主義社会に不可欠な社会教育施設であるなら、日本の公共図書館の蔵書構成はそうなっているであろうか。現実に日本の大多数の公共図書館はその蔵書をベストセラーやそれに類する営利出版物が大半を占め、地方行政資料はおろか、郷土資料類すらほとんどない。公立の公共図書館のこのような状況のために、多くの自治体が乏しい社会教育関係予算を割いて、郷土資(史)料館を創ったり、公文書館を公共図書館とは別に建設するという措置をとっている。日本の図書館学教育、司書養成では不思議なことにアーカイブズ(文書館)は図書館とは別物と言う、世界常識から外れた教育がおこなわれている。そればかりか、ベストセラー中心の蔵書構成で、無料での貸出サービスに狂奔し、結果として、公共図書館界は本来密接な協力関係を築くべき出版界、出版流通業界から敵視されるに至っている。図書館法第3条に示された立法の趣旨に添い、この事態を少しでも改善するために、なすべき方策として、一つに公共図書館の蔵書から営利出版物を排除するということも考えられるが、これはあまり現実的ではない。既に構築され、利用に馴染んだ蔵書はそれなりに大事にこれからの時代に引き継ぐことが意味あることでもある。となれば残された方策は蔵書の閲覧・利用の無料原則の見直ししかない。

 

7.図書館の使命とは?

図書館の使命には時を貫いて、人類の文化的な成果を伝承するという大事な役割がある。

この使命の一面だけを見て、世上、図書館にはカビ臭い古い本ばかりがあり、そのような古い本の愛好者だけが利用する施設と言う誤解も生まれるが、図書館は現代の学術、芸能、産業、社会等に関わるあらゆる記録された情報を蔵書として将来の世代へ伝えると言う貴重な、人類社会の記憶装置としての役割も有している。デジタル化社会になってもこの機能が失われることはない。もし、図書館が人類の知的文化の伝承・伝達機能を喪失するなら、その時から人類社会の進化は止まり、崩壊が始まる。となれば、過去から引き継いだ記録類を如何に修復保存し、将来に伝承するかに加え、その前提として、いかなる記録物を現代において選択・収集し、将来に引き継いで行くかという、人類の将来を決定づける重大な使命を司書は担うことになる。営利出版物は既に国立国会図書館が法定納本制度で集め、永久保存する体制をとっている。公立の公共図書館がもし利用の無料原則(図書館法第17条)を今後とも守りたいなら、注力すべきは非営利出版物、なかでも図書館法に記載されている郷土資料、地方行政資料の類である。これらの資料類は各自治体の社会教育施設としての公共図書館が収集・保存せずにどこがそれを担当するのであろうか。またその利用に対価を徴収せずとも迷惑を蒙る人はいない。

ともかく日本の公共図書館はあまりにパブリック・サービスの振興だけに力を入れすぎてきた実態がある。パブリック・サービスの振興は、それに見合ったテクニカル・サービスの充実に裏付けられる必要がある。テクニカル・サービスとは、即ち、蔵書構築に加えるべき資料類の選択・収集であり、それら資料類の分類、目録等の組織化であり、利用に供する(した)資料類の修復・保存、維持・管理である。

 

8.公共図書館には可能な限りの財源を振り分けるべきではないか?

郷土史の分野では歴史研究の進展とともに、新たな歴史資料が発掘され続けている。デジタル革命の下で、地方行政資料として新たに生み出される行政資料は量的には膨大であるし、さらに、情報公開と秘密保護の法体系の下での将来の地域社会の公民にとって価値ある歴史公文書の選択は生半可な知的能力では遂行不可能と言っても過言ではないほどの重みをもった業務である。この事は裏を返せば、このように将来の地域社会の公民の負託に応えると言う重要な業務を担当する真の公共図書館には、例え乏しく、脆弱な地方財政であっても、可能な限りの財源を振り分けるべきであるし、またそれに相応しい業務であると言えるのである。以上、公共図書館業務のごく一面について私見を述べた。諸賢のご議論の種にしていただければ幸いである。

 

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